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精神論

今回は大学受験生の「心構え」について書いてみようと思います。「心構え」までは許されるとして、これが「根性」「死ぬ気」等の言葉に置き換えられると脊髄反射的拒否反応を起こす人が多いのも知っていますが、この辺りについての考察も踏まえて少し書いてみます。

まず、「根性」「死ぬ気」等の言葉に泥臭くスマートでない忌むべきものという印象が生じることに関しては大きく二つの理由があると考えます。

ひとつは、必死になること自体を恥ずかしいと考える風潮です。
これにはさらに細分化された理由があると考えられ、1. 必死になる=余裕がないという印象を生じさせる、2. 全力を尽くして結果に結び付かなかったときの恐怖→言い訳の余地を残したい、3. 仮に根性を意識していたとしても口に出すべきではないという美意識、この辺りが入り混じって拒否反応を起こしているものと推測されます。ただ、これは環境によって大きく影響を受け、たとえば進学校生徒は大体においてみんなが妙な根性を保有しているので必死になることに抵抗がありません。

もうひとつは、「根性」「死ぬ気」は合理的でないという考え方です。
「根性」「死ぬ気」というとどうしても体育会系の不合理な精神論が頭に浮かび、給水なしで駅伝を走らせたりウサギ跳びでグラウンド100周させるなど、目的に対して合理的でない手段をとる思考回路全般を「根性」「死ぬ気」という言葉は指す場合があります。この用法に関する拒否反応はあっていいと思います。ただし、後で述べますが不合理だからという理由は実はそれほど真に迫っていません。誰もが思っている以上に不合理なものを抱えています。

ところで、以上のような理由で即座に「根性」「死ぬ気」は拒否されるべきでしょうか。少し考えてみましょう。

たとえば、みなさんが世界史で学習したような歴史上の英雄はどうだったのでしょうか。秦の始皇帝、アテネのペリクレス、ローマのカエサル、オクタヴィアヌス、フン族のアッティラ、ゲルマン人傭兵隊長オドアケル、フランスのナポレオン、プロイセンのビスマルク…例を挙げるときりがないのでこの辺りで止めますが、彼らは全てスマートに余裕を持ってこなしたのかといえばそうではなく、歯を食いしばって根性で切り抜けた局面が多々あったと考えるのが自然でしょう。もちろん「英雄と比べるのは馬鹿げている」という反論はあると思います。

それでは、より身近なところでスポーツ選手などはどうでしょうか。彼ら・彼女らは単純に生まれつき才能に恵まれただけかといえばそうではなく、何者かになりたいという強い願いを持って不合理な苦難にも根性で耐えつつ名を成したと考えるのが自然でしょう。もちろん「スポーツ選手と比べるのは馬鹿げている」という反論はあると思います。

それでは、より身近なところで当塾の卒塾生などはどうでしょうか。見事志望校に合格した彼ら・彼女らは単純に勉強が心から好きで元から頭が良かったから志望校に受かったのではなく、みんなが辛くて逃げ出すところでなんとか根性で踏ん張って合格を勝ち取ったと考えるのが自然でしょう。というより、これは実際に見てきました。もちろん「卒塾生と比べるのは馬鹿げている」という反論はあると思います。

やや皮肉を利かせてしまいましたが、事の大小に関わらず古今東西何かを成し遂げたいならその根底にあるのは「強い意志」に違いなく、「根性」や「死ぬ気」はその言い換えに過ぎないということをぜひ理解して頂きたいと思っています。

そもそも個人が何かを成し遂げたいという気持ち自体がそれほど合理的なものではない(むしろ、かなり不合理である)以上、そのモチベーションが完全に合理化されるということはないのです。今後みなさんが歳を重ねていくうちに「なんでコイツこんなに頑張ってんだ?」と思う人に多く出会うと思いますし、また、そのような環境で成長してほしいと願いますが、よく観察してみればその背後にあるモチベーションは常に個人的・不合理なものと分かると思います。みんなが根性で切り抜けているという事実を知らず、自分だけ「スマートに」遅れを取ることは単純に損です。「それならもう少し頑張っておけばよかった」「もっとできたのに」と後悔しても遅いのです。

長々と書きましたが、言いたいことはひとつ。
何かを成し遂げたいなら「根性」「死ぬ気」を心に秘めてください。
ただし、口に出す必要はありません。

これは「矢沢永吉は凄い人だが矢沢ファンはあまりかっこよくない」の法則として広く知られています。

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