2019.12.9
浪人生コラム②-私立大学の合格者減少の背景とは【国の政策編】-
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みなさんこんにちは、浪人生コラムを担当しております初田です。
引き続き、ここ数年に及ぶ浪人生の受験環境についてみていきます。
前回のコラムでは浪人生を取り巻く受験環境を、①受験者数が増えている一方で②大学側が入学者の数を減らしている現状
を数字で見ていきました。
今回は、なぜ大学がこのように入学者の数を減らし始めたのかについてみていきましょう。
数字で見る浪人生
なんで大学は入学者を減らすなんてことをしたのか―国の政策から考える
そもそも私立大学は学校法人という企業(営利団体)ですので、一般法人と同様に利益を出す必要があります。
そのため学生の質を維持しつつも、出来るだけ定員通りの学生を受け入れたいはずです。
今起きている実態と、入学者数を減らす大学の動きは矛盾しています。私立大学の入試が難化し始めた2016年から何が起こったのでしょうか。
答えは2016年に出された文部科学省からの通知にあります
平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)
私立大学入試難化の背景と「地方創生」と「入学定員超過」
2016年から始まった私立大学の難化には、①国の政策として「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(地方創生の観点)と②大学設置基準法に基づく大学の教育水準維持のための適正管理(入学定員超過の是正)を根拠として始まりました。
「地方創生」からの視点
少子高齢化と都市への一極集中が進む中で国は『「学び続ける」社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について(第六次提言)(平成27年3月4日)』の「3.教育がエンジンとなって「地方創生」を」において地域の産業、担い手を育てる大学という位置づけで、地域における大学の機能強化を地域振興活性化のための手段として捉え、その地域における大学の機能強化を進めるうえで、大学進学時に都市部への人口流出が発生していることを指摘しました。
この中で「大学進学時には、地方から都市部への大きな人口流出が生じているが、その背景には、都市部の大学等において定員を上回る学生を受け入れている実態があり、教育環境を改善する観点からも、この状況を是正する必要がある。このため、国は、入学定員超過に対する基盤的経費の取扱いの更なる厳格化など、特に大都市圏の大学等における入学定員超過の適正化について検討し、成案を得る。」との提言を行い、大学、特に「大都市圏における入学定員超過の大学」にその適正化をもとめました。
これが、私立大学における入試難化の一つ目の要因です。
「入学定員超過」からの視点
二つ目の要因は大学、特に大都市圏における大学の入学定員超過です。
大学は大学設置基準法第18条3項で「大学は、教育にふさわしい環境確保のため、在学する学生の数を収容定員に基づき適正に管理するものとする」ことが求められています。
高大接続改革、つまり現在の入試改革の検討もあった2014年当時、全国に生じていた入学定員超過率は103.8%で、大学生の入学超過人数は約4万5000人となっていました。そしてこの内の7割にあたる3万1000人が大・中規模校に集中していました。
また地域別にみても4万5000人のうち8割に当たる3万6000人が三大都市圏に集中していて、中・大規模校おける約3万1000人の入学定員超過のうち9割、つまり約2万7000人が三大都市圏に集中していました。
入学定員超過のうち約6割が三大都市圏の大学生よって占められていたのです。
少子高齢化と都市一極集中にともなう地方創生の必要性、また高大接続改革の検討を行われていた中で適正な学生数の管理がより求められ始めた事、これらの外部要因によって「都市部の大学の入学定員を削減することによって、都市部に流出する学生を域内に確保し、地方創生と大学教育の環境改善を共に図る」ことが政策の方針として決められたのです。
これが、ここ数年に及ぶ現役生、浪人生の置かれた受験環境になります。
しかしながら、あくまで私立大学の運営は国家によってではなく「私」によって行われているはずです。コラム冒頭でも触れた通り、これだけでは私立大学は学生を増やすインセンティブはあれども、あえて減らすインセンティブはありません。
次回以降のコラムでは、このような国の政策がなぜ私立大学にまで大きく影響を与えているのか、そして受験を控えた現役生や浪人生にとって2020年度入試、2021年度入試の受験環境がどのようなものになるか考えていきたいと思います。