センター試験出願戦略の作法
そろそろ具体的に出願校・学部を決めていく時期に入っています。当塾ではMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)に成成獨国武(成蹊・成城・獨協・國學院・武蔵)、さらに日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)といった大学・学部の中で、英語・国語・社会の3科目だけで出願可能なところをピックアップし、前年度のボーダーライン順に並び替えた資料を配布しています。
【1】センター利用枠の出願について
まずは私立大学センター利用枠の出願について書いておきます。
センター利用枠は各大学・学部毎に配点や使用科目が異なり、入試形式は複雑です。そこで、その複雑さに対応するべく、私立大学文系センター利用枠を検討するに当たり最低限いくつか考えておかなければならないことがあります。
(1)国語の解答範囲
ご存知のように、センター試験の国語は時間制限が極めて厳しい試験です。まともに取り組めばその厳しさは英語の比ではありません。しかしながら、私立大学文系センター利用枠を狙っていく生徒は「現代文のみ」「現代文と古文」「全て」と解答範囲を選ぶことが可能です。地方や非進学校の公立高校などでは全生徒に全範囲を解答させるのが当然という風潮があるようですが、そこは自分の実力と相談して、少なくともどの範囲まで解答するかを出願までには確定しておいてください。また、出願との兼ね合いもありますので、当日は決めたところまで確実に解いてください。
※以下のチェックリストで実力を確認してみましょう。
□ 昔から国語は得意であると言い切れる(2点)
□ センター国語で時間切れになったことは一度もない(1点)
□ 第一志望に古文・漢文まで必要である(1点)
□ 模試や演習で200点中160点(150点中120点)以上を取ったことが二度以上ある(2点)
□ 模試や演習で200点中140点(150点中105点)以上を取ったことが二度以上ある(1点)
0~2点→「現代文のみ」で出願してください。
3点以上→自由に出願してください。
(2)最低点と最高点のシミュレーション
当塾ではセンター型演習を多く行っていますが、その中で自分が①最低でも取れる点数と②最高で取れるかもしれない点数の予測を立てます。そのうえで、どんなに悪くとも受かるであろう大学、最高に運が良ければ受かるかもしれない大学を絞り、その範囲内でボーダーラインを参考に出願学部を散らします。ボーダーラインが同程度の大学・学部に集中して出してしまうと全落ちか全合格という極端な結果となり、滑り止めとしての機能を果たさないので注意しましょう。
例 |
英語(筆記) |
英語(L) |
国語 |
社会 |
合計 |
% |
① |
140 |
30 |
65/100 |
80 |
315/450 |
70.0% |
② |
170 |
40 |
85/100 |
95 |
376/450 |
86.7% |
上記例の場合、「ボーダーライン70%→1校・75%→1校・80%→1校・85%→1校・90%→1校」と5%刻みで散らして出願します。例年、ほとんどの生徒は平均4~6学部に出願しています。
(3)学科には一切こだわらない
センター利用枠はほとんどの生徒にとって滑り止めです。滑り止めとは本来行きたくない大学・学部から選ぶことになります。そもそも行きたくないのですから、ここで学科にこだわる必要は全くありません。決め手はひとつ。最もボーダーラインが低い=不人気と予想される学科に出願しましょう。学科選びに妙な色気を出してしまった結果、他の学科なら合格していたはずの点数で不合格になってしまうという悲劇が頻繁に起こっています。ここは開き直ってください。
(4)滑り止めの意味
上で滑り止めとは本来行きたくない大学だと書きました。それならば最初から受けなくてよいではないかという疑問が生じるのも自然なことだと思います。しかしながら、人はそれほど強くありません。現在はセンター試験直前で皆さん精神が昂ぶっており、「俺は志望校一点突破」「早稲田に非ずんば人に非ず」などとテンションの高いことを言っている人も多くいるとお察しします。ですが、実際に進学先の検討に入るのは2月下旬から3月にかけての期間です。その頃はまだ寒さも厳しいとはいえ、少しずつ春の気配を感じ始める季節です。周りの友達は新しい生活に向けて色々と準備を始めます。一人暮らしの手配で不動産屋をめぐる子もいるでしょう。花見のお誘いもあるかもしれません。「第二外国語、何にする?」― 新一年生の通過儀礼です。そんな中、自分だけ全く進路が決まっていない状況を想像してみてください。そう、間違いなく地獄です。
滑り止めとは2月に選択肢を残すという意味合いが大きいのです。
2月3月の空気の中で改めて考えて、それでも行きたくなければ蹴ればいいだけです。
【2】個別試験の出願について
(1)個別試験の出願確定の時期について
前提として「行きたい大学・学部」はよほどのことがないかぎりチャレンジしましょう。特に社会だけでも真面目に勉強していれば試験は水物、何があるかは誰にも分かりません。それを踏まえたうえで、私立大学文系受験における出願は国立受験組とは大きく異なります。一昔前の私立文系ではセンター枠を活用する生徒も少なかったのですが、現在は力試し、兼、エネルギーとお金を節約できる滑り止め対策としてセンター試験の存在は外せません。
基本方針としてはセンター試験でMARCHがほぼ確定した場合は早慶を狙いに行き、決められなかった場合は個別試験でMARCHを受けていかなければなりません。全てはセンターの結果次第です。したがって、現行入試制度をうまく利用するのであれば本格的に出願校・学部を決定して出願するのはセンター後になります。ただ、今年中に候補は決めておきましょう。
(2)過去問対策について
私立文系受験の難しさのひとつは過去問対策の難しさにあります。一口にMARCHと言っても5つの大学をまとめて総称しているわけで、当然ながらそれぞれの大学に平均5,6学部はあります。そのうえで各学部毎に出題形式は大きく異なっており、さらにチャレンジ校である早慶上智、滑り止めの大学・学部まで視野に入れると「何を対策すればいいの?」状態になることは避けられません。これは皆さんが悪いのではなく、誰がやっても必然的にそうなります。
ただ、このことはそれほど心配することでもありません。
理由としてはまず、過去問対策を繰り返したからといって成績が爆発的に上がるわけではありません。過去問対策はあくまでもアウトプット対策であり、繰り返したところでインプット量=学力はそれほど大きく上がりません。また、傾向を掴むという目的で過去問対策をする必要はありますが、その目的であればセンター後に2,3回も解いてみれば十分です。今の時期はインプット自体を高いレベルで行っていくことが何よりも大切だと理解してください。
では、なぜ一部の学校の先生は過去問対策を早めにするよう強く勧めてくるのかについても書いておきますと、大きくふたつほど理由があると思います。
ひとつは前述しましたように、センター利用枠のない時代は戦略が異なったからです。特定大学・学部だけに照準を絞って勉強し、そこに落ちてしまったらかなりレベルの低い滑り止め校に入るしかないというハイリスクな戦略を取る必要がありました。この場合、アウトプット対策としてセンター型演習も行わないわけですので、過去問対策は非常に重要でした。
もうひとつは、東大が最も特徴的だと思いますが、相当量のアウトプット対策をしなければ対応できない試験形式があるからです。特に顕著なのが「自由英作文」と「現代文論述(小論文)」でしょう。これもアウトプット練習、そして普段から試験形式を踏まえたインプット作業の両方が必要ですので、早めに過去問対策に入る必要があります。しかし、私立文系に限ればそのふたつの試験形式を課す学部は数えるほどしかありません。具体的には早稲田法・政経、慶應法・経済・商・文・SFCを第一志望としていない場合は、全てセンター対策の延長で対応できます。
まとめると、各人の学力、志望大学・学部に関係なく、国立も私立もごっちゃになって「過去問対策」という言葉だけが一人歩きしてしまい、具体的に「何を求めて」「何のために」しなければならないかという本質的な部分が抜けてしまっているのだと思います。指導側としても「過去問対策をしろ!」と言っておけば何か言ったような気分になれるという動機があります。これが有名な、“何か言っているようで、実は何も言っていない”という罠です。変に惑わされることなく、今はインプット作業に集中してください。爆発的に伸びる可能性を秘めた大事な時期です。
(3)学科には一切こだわらない
センター利用枠と同様に、滑り止めで学科(学部、ではなく)にこだわる必要は全くありません。というより、学科にこだわってはいけません。基本的に大学側の生徒募集は学部の下、学科単位で行っていまして、それぞれボーダーラインが微妙に異なります。ところが微妙とはいえ、得点率で3~5%ほどの差が出る場合もあり、「げ、あの学科なら受かってた。。。」なんてことはよくあります。そんなことにならないよう、学科は確実に最もボーダーラインが低いと予想される(ある程度データから推測可能です)、言ってしまえば不人気なところを狙ってください。こう言うと「興味のないところに行ってもなあ」という声が聞こえてきそうですが、そもそも滑り止めとはそういう存在です。やはり、そこは開き直ってください。もうひとつ、学科変更くらいであればほとんどの大学では入学後に頑張れば普通に可能です。実際、教え子の中には学科どころか学部変更した強者も複数人います。
以上、出願の際に気を付けておくべき点を列挙しておきました。
参考にしてください。